ライブハウスを取り巻く問題 〜ノルマ問題の実体〜[記事公開日]2020年10月7日
[最終更新日]2021年06月17日
[ライター]kato

ライブハウス

ライブハウスと一口に言っても、キャパシティからジャンルまで実に様々です。

この記事では主にプロを目指してライブハウスで活動するアマチュアミュージシャンに向けた「ライブハウス問題」について深く掘り下げて書いていこうと思います。

ノルマ制度問題

ノルマ制度はライブハウスに関する問題で一番議論されていると言っても過言ではないテーマです。

ライブハウスに出演する多くの場合、「チケットノルマ」というものが出演者に課されます。

例えば、チケット料金¥2000×10枚がノルマだとすると出演者はチケット10枚を宣伝してお客さんに販売するわけです。

全てチケットを売り切れて、当日の動員が10人だった場合、ライブハウスにお金を支払うことはありません。

しかし、チケットが売れず仮に1人しかお客さんを呼べなかった場合、残りの9枚分のチケット¥2000×9枚の¥18000を出演者が自腹を切ってライブハウスに支払うことになります。

これはごく真っ当なシステムで、ライブハウス側も出演者にライブハウスという場所、音響、照明、といったものをサービスとして提供しているわけです。

それに対する使用料が発生するのは当然ではあります。

ではノルマ制の一体何が問題になっているのでしょうか。

ノルマを支払えば誰でも出れてしまう

ノルマ制の問題でまず言えるのは、ノルマを支払えば誰でもライブハウスで演奏出来てしまうという点です。

昔はライブハウスに出演する多くの場合、デモテープオーディションや、実際にライブハウスで一度演奏するといったオーディションが行われていました。(今でも老舗のライブハウスでは出演する際にオーディションを課せられる場合もあります。)

当然ですが、オーディションで出演者を厳選しているライブハウスの方が出ているミュージシャンのレベルは高くなります。

素人に毛が生えたようなレベルのアーティストや集客が見込めないアーティストはそもそもライブハウスで演奏することさえ昔は出来なかったのです。

これは裏を返すと、今は誰でも出演料としてノルマさえ支払えばライブハウスでお客さんからチケット代を取ってライブをすることが出来るということです。

そうすると必然的にライブハウスで演奏するアーティストのレベルが下がります。

ライブハウスの出演者のレベルが下がれば当然、客足も遠ざかってしまいます。

 

しかしながら、誰しもがプロを目指してライブハウスで演奏したいわけではありません。

趣味として始めた楽器やバンドの発表会としての場所が欲しいといったニーズもあるわけです。

そういったニーズにとってはノルマを支払ってライブが出来るというシステムは決して悪いことではありません。

ライブハウスで演奏するということの敷居が下がれば、若手のミュージシャンも参入しやすくなります。

ここがノルマ問題の難しいところで、ライブハウスに出演することの敷居を上げること、下げること、それぞれにメリット、デメリットが存在するのです。

若手アーティストに悪徳なノルマが課される

ノルマ制で問題視されるのは、悪徳なライブハウスが若手に膨大なノルマを課して、売り上げをそこで補填しているというケースです。

語弊のないように書かせていただくと、全てのライブハウスがそのようなことをしているわけでは決してありません。

多くのライブハウスは若手を育てようと熱心にアドバイスしてくれたり、場合によっては出演条件も良くしてくれたり、出演者側に寄り添ってくれるライブハウスも多いです。

 

ライブハウスではブッキングイベントという出演者4〜5組の対バンイベントが多く催されています。

人気のあるメジャーアーティストは基本的に単独ライブになるわけですが、そこまで集客の出来ないインディーズやアマチュアのミュージシャンは何組かのセットでイベントを行うわけです。

その際に例えば4組の出演者がいたとすると、実はこの4組の出演者でそれぞれ、出演の条件が全然違かったりします。

わかりやすく4組のアーティストを、

・A(メジャーでの活動経験有り。集客も多い)

・B(メジャーでの活動経験なし。集客は多い)

・C(メジャーでの活動経験なし。集客はあまりない)

・D(ライブハウス出演3回目。集客はほぼない)

 

このような4組でのイベントの場合、例えばこんな条件だったりすることも珍しくありません。

 

・Aのアーティストはノルマなし。動員1人目から50%バック。

・Bのアーティストはノルマなし。動員は10人目以降から50%バック。

・Cのアーティストはノルマ5枚。動員は10人目以降から50%バック。

・Dのアーティストはノルマ15枚。動員は10人目以降から50%バック。

 

これはあくまで一例ですが、こんな風にして実績があるアーティストや集客の見込めるアーティストはかなり条件が優遇され、駆け出しのアーティストは高いノルマが課せられることが多々あります。

しかしながら、これもよくよく考えると当然の話で、ライブハウスが汚いわけでは決してありません。

ネームバリューがあるアーティストは出演してもらうだけでお店の宣伝になるわけですから、当然条件は良くします。

一方でライブハウスに出始めたばかりのアーティストは集客も出来なければ、演奏のレベルも低いわけです。駆け出しの頃は動員が0のアーティストもザラにいますので、お店としてはノルマを課さざるを得ないのです。

 

そもそも、どうしてメジャーで経験のあるAと、駆け出しの新人Dを同じイベントに出演させるのか?といった疑問が湧くと思います。

それはライブハウス側がDのアーティストに期待しているからで、格上のアーティストとの対バンで、ステージを学んで欲しい、お客さんを呼べるように努力して欲しいといった思いからイベントを組まれていることも多いです。

 

ここがとても難しいところで、若手のDはこの条件の違いを知ったら、「どうして、こんなに条件が違うんだ。理不尽だ。」と不服に思う人もいると思います。

一番問題になるケースは蓋を開けてみた時に、下記のように若手がベテランの動員を上回った場合です。

 

・Aは実績はあるが、お客さんを5人しか呼べなかった。

・Dはチケットノルマを必死に売って10人の集客があった。

 

その場合、Aはチケット代が¥2000だったとすると、動員1人目から50%バックなので¥1000×5枚で+¥5000の収入になります。

それに対してBはノルマが15枚なので、10人の動員の場合は不足分が5枚なので、

¥2000×5枚で¥10000をライブハウスに支払うことになります。

 

Aは5人呼んで+¥5000

Dは10人呼んで-¥10000なのです。

 

ライブハウスではこういったことがわりと頻繁に起こっています。

この数字だけを見ると、Dの方が頑張ってるのに可愛そうだと思えるかもしれません。

しかしながら、ライブのステージとしてはやはりAの方が遥かに完成されていて、素晴らしいものなわけです。

Dは演奏も下手くそで動員した10人も、友達や家族だけといったケースもあるでしょう。

 

逆にAの立場になって考えてみると、何の実績も動員もない新人と対バンすることには何のメリットもありません。

そう考えると、出演者によって条件が違うのは当然のことであり、若手のアーティストはこういったチャンスに食らい付いてステップアップしていく外ないのです。

中には、若手にもっと膨大なノルマを課したり、次から次へと適当なイベントに組み込んで、若手から搾取するライブハウスも実際に存在するので、これからプロを目指す方はどうかお店に搾取されないように気を付けて欲しいと思います。

 

ライブハウスが多すぎる問題

ライブハウスの数は昔に比べ、物凄い勢いで増加してきました。

渋谷区だけでもおよそ110店舗のライブハウスがあり、ライブの出来るカフェ、レストランも近年全国に増えています。

 

ライブハウスが増えるとどのようなことが起こるのか。

まず、出演アーティストが分散します。

そうするとライブハウスのスケジュールが埋まらなくなってくるので、ライブハウスはアーティストにノルマをかけます。ノルマを払ってくれる人ならば誰でも出すようになります。

ノルマをかけると先にも書いたように、誰でも出れる箱になり、ライハウスの演奏レベルが下がります。

レベルが下がれば当然客足も遠ざかります。

お客さんがいないのでライブハウスでライブをする演者も当然減ります。

 

ライブハウス多い→出演者が分散→出演者にノルマをかける→誰でも出れる→

レベルが下がる→お客さんが減る→ライブハウスでライブをする演者も減る→

ライブハウスの経営がヤバいのでノルマをかける

 

という負のスパイラルに陥っているのです。

仮に、極端にライブハウスが減った場合を仮定して考えると、

 

ライブハウスが少ない→出演者が溢れる→オーディションで出れる人を厳選する→

ライブハウスのレベルも上がる→ライブハウスに人が集まる→

ライブハウスもノルマを課す必要がなくなる

 

これは現実的な打開策とは到底呼べませんが、ライブハウスが乱立していることで、問題がどんどん膨らんでいるということは否定出来ないことがわかります。


ライブハウスを取り巻く問題は様々な要素が密接に絡み合っています。

2020年現在、コロナウィルスの影響でライブハウスが軒並み閉店に追い込まれています。

これは良くも悪くも一つの時代が終わりに向かっているのだと感じずにはいられません。

これからは出演者に選ばれる強みのあるライハウスが生き残り、そうでないライブハウスは淘汰されていくのでしょう。

ライター:kato

2020年よりフリーライターとして活動。 @kato1155ka

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