ライブハウスに出演する多くの場合、「チケットノルマ」というものがあります。
以前、チケットノルマを無駄に支払うようなライブは止めるべきだという記事を書きました。
しかし、近年では「チケットノルマは良くない」という風潮が広まったことで、「チケットノルマがあるライブは出ません」という方針を固めてしまうアーティストも増えてきました。
これは実は非常に危険です。
今回は「ノルマ制ライブに出ない」と決めてしまうことの危険性を深く掘り下げて、ノルマ制の是非について考えていきたいと思います。
ライブハウスに出演する場合、基本的にはチケットノルマがアーティストに課されます。
その額は会場、イベント、アーティストによってまちまちです。
例えば、¥2500のチケットがソロ、ユニットの場合は10枚、バンドの場合は15枚などアーティストの形態によって変動もします。
¥2500×10枚がノルマの場合、合計¥25000を出演する際の担保としてアーティストが背負うことになります。
チケットを10枚売ることが出来ればライブハウスへの支払いは0ですが、仮に5枚しか売ることが出来なかった場合、残りの5枚分のチケット代をライブハウスに支払わなくてはなりません。
もし仮にチケットが1枚も売れなかった場合、¥25000丸々ライブハウスに支払うことになります。
逆に10枚以上チケットを売ることが出来た場合は、超過分の売上は全てアーティストにバックされることが多いです。
中には11枚目以降はハーフバック(半額をキャッシュバック)といった場合もありますが。
これはライブハウス側からすると、ある程度の動員補償が欲しいのは当然と言えばで、「ノルマ制=悪」ではありません。
しかし、駆け出しのミュージシャンからすると毎回10枚のチケットを売るというのは本当に大変です。
インディーズのブッキングライブで毎回10人以上動員出来るアーティストは本当に数少ないです。
アーティスト側からすると、ライブをする度に何万というお金が消えていくわけですから「ノルマ制のライブには出ません」という頑なな態度を取るアーティストがいるのもわかります。
近年増えているのは「チャージバック制」と呼ばれるシステムです。
チャージバック制の場合、基本的にアーティストにノルマはなく、一定人数を呼べた場合にその何%かをアーティストにバックするといったシステムです。
例えば、「ノルマなしの5枚目以降50%バック」「ノルマなしの1枚目から60%バック」などその条件は様々ですが、基本的にノルマは課さずに動員に応じたギャランティを払うというものです。
これはアーティストからするとデメリットがありません。
動員でコケてもお金を支払うリスクはありませんし、場合によってはしっかりと売り上げを持って帰れるわけです。
チケットノルマ制に搾取され、ライブハウスに辟易していたアーティストはこの好条件に飛びつきます。
「チケットノルマのライブには出ません」と頑なに言い張るアーティストはこういった好条件のチャージバックのライブだけに出ているわけです。
この「チャージバック制」の場合は、当然ライブハウス側に大きなリスクがあります。
アーティストは全然お客さんを呼べない可能性もあるのです。
その場合にノルマのようなお店の売り上げを保証するものは何もないため、大赤字になるリスクもあるのです。
ですので、お店とアーティストの信頼関係がなければ成立しないシステムですし、動員が出来ないアーティストはライブに誘われなかったりもします。
「チケットノルマのあるイベントには出ません」と宣言してしまうアーティストがインディーズに結構な割合でいるのですが、これは非常に勿体ないです。
きっとチケットノルマによってこれまで何度も赤字を経験し、そういった考えに至ったのだと思います。
チケットノルマに対して敏感になるということ自体は決して悪いことではありません。
中には悪徳なイベンターに膨大なチケットノルマを課されたりといったこともあるので、出演するイベントのノルマについて吟味することは非常に大切です。
しかし、「チケットノルマのあるイベントには出ません」と宣言してしまうのは少し危険です。
まず、この宣言をしてしまうと、イベンターやブッカーの方から声がかかりづらくなりますし、印象もあまりよくありません。
逆の立場になって考えればわかると思いますが、お誘いをした際に「ノルマがあるのは出ません」と返されたら今後、お誘いをしようとは思いませんよね。
また、この宣言は「自分はあまりお客さん呼べません」と言っているのと同じです。
例えばチケットノルマ5枚のイベントにお誘いした際に、「ノルマがあるなら出ません」と返されたら、「この人はお客さんを5人呼ぶ気もないんだな」と思うでしょう。
本当にお客さんの呼べるアーティストはノルマがあったとしても、「そのくらいは全然呼べるから大丈夫」というスタンスです。
「ノルマがあるライブは出ません」宣言を続けていると、本当に良いイベントへの出演のチャンスを逃してしまいます。
例えば、有名な大物アーティストのオープニングアクトをインディーズのアーティストに任せたいとなった時に、オープニングアクトの動員が0では示しがつきません。
10枚だけノルマを頑張って欲しいとライブハウスの人が考えていた時に、「ノルマがあるライブは出ません」宣言をしているアーティストにはまず声はかかりません。
また、業界の関係者が観に来るようなショーケースライブなどもノルマがあったりします。
ノルマを背負ってでも勝負すべきタイミングというのは必ずあります。
「ノルマのあるライブには出ません」と宣言してしまうことで、自分が赤字でライブをすることはなくなるでしょう。
赤字がなくなるというのは素晴らしいことですが、自分の知らないところで沢山のチャンスを失っているかもしれません。
「ノルマのあるライブには出ません」と宣言してしまうのは勿体ないのですが、それでもやはりノルマ制のライブへの出演はかなり慎重になるべきだと考えます。
実際、ライブハウスのスケジュールを埋めるためでしかないような酷いイベントにノルマありで呼ばれるといったケースも多いからです。
そして悪いライブハウスだと、一度ノルマありのライブに出ると「ノルマを払ってくれる金ヅル」認定されてしまいます。
そうすると「ライブ凄く良かったから、来月もこの日どうかな?」とすぐに次のスケジュールを決めようとしてきます。
特に若手の方、ライブハウス出演の経験が浅いアーティストは気を付けて下さい。
そう考えるとノルマ制のライブへの出演を頑なに拒否するアーティストが増えてしまうのも仕方がないとも思えます。
ノルマを支払ったとしても「良いイベントだった」と思えるブッキングであったなら、ノルマ制ライブを断固として拒否するようなことにはならないはずです。
実際、若手アーティストの足元を見ているライブハウスも少なくありません。
イベント出演を決める時は、ブッカーの口車に乗せらえないように注意して、自身の動員力、スケジュール、イベント内容をよく考えた上で決めるようにしましょう。
出演するにあたって、良いライブハウス、悪いライブハウスを見極める良い方法が一つあります。
それは「本気でダメ出し、アドバイスをしてくれるか」です。
金ヅルにしか思われていない場合、ライブハウスの人は適当に褒めてアーティストを気持ちよくさせて、次の出演を決めようとしてきます。
しかし、時に本気で演奏や活動に関するダメ出し、アドバイスをしてくれるところもあります。
そういったお店の方が信用出来ます。
なぜなら、厳しいことを言えばアーティストは出なくなってしまう可能性があり、お店にメリットはないからです。
ライブハウスが本気でダメ出しやアドバイスをするというのは、お店の利益よりもアーティストの成長に期待している証拠です。
ライブハウスの人と積極的にコミュニケーションを取ることは重要です。
その上で、誘われたイベントに関してはよく吟味して、出るべきではないと判断した場合はしっかりと断りましょう。
ちゃんとしたライブハウスならあなたの考えや気持ちを尊重してくれるはずです。
チケットノルマ制の是非はとても難しい問題です。
「チケットノルマ=悪」という風潮が強まっていますが、その背景にはライブハウスの増加やライブハウスの敷居の低下など様々な問題が絡んでいます。
またチケットノルマ制自体が問題なのではなく、ライブハウスの姿勢に問題があると感じます。
例えば、チケットノルマのあるライブでも、ライブハウス側も集客努力をし、アーティスト以上にライブハウスがお客さんを入れることができればアーティストは誰もノルマに対して文句は言えないでしょう。
同様にアーティスト側の姿勢もとても重要で、「ノルマのあるライブには出ない」と安易に決めてしまうのは良くありません。
そもそも何年も活動していて10枚程度のノルマをクリアすることすら出来ないなら、自身の音楽活動の在り方を根本から見直す必要があるのかもしれません。
「ノルマのあるライブは悪だ」と頭ごなしに決めつけたりせずに、イベントの内容、ブッカーの意図、自身の置かれている状況を加味した上で、出演を決めてみてはいかがでしょうか。
「ノルマなし」対応ライブハウス一覧 – Supernice!ライブハウス
ライター:kato
2020年よりフリーライターとして活動。 @kato1155ka
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