ANTHRAX スコット・イアン:リズムギターに特化したスラッシュ・メタル・リフの名手[記事公開日]2025年4月21日
[最終更新日]2025年05月7日

スコット・イアン

スコット・イアンは、ニューヨーク・クイーンズ出身のギタリストで、1981年7月18日にダン・リルカー(ベース)と共にスラッシュメタル・バンド・ANTHRAXを結成しました。アンスラックスはイーストコーストから登場した初期のスラッシュ・メタルバンドの一つで、Metallica、Slayer、Megadethと並ぶ“Big Four”の一角としてシーンを牽引しました。

1984年にデビューアルバム『Fistful of Metal』を発表後、1985年『Spreading the Disease』、1987年『Among the Living』などの名盤を世に送り出し、80年代後半にはハードコアやパンクの要素も取り入れた独自のサウンドを確立しました。その後も通算11枚のスタジオ・アルバムをリリースし、1984年以降は世界中で何千ものライブを行うなど長年にわたって第一線で活躍しています。

スコット・イアンの演奏スタイルとリズムギターの魅力

スコット・イアンののプレイスタイルは「スラッシュ界のキース・リチャーズ」とも評されるほどリズムギターに特化しています。彼自身も「頭の中に浮かんだリフをギターで弾いて、かっこよく鳴ったところを録音するだけ」とシンプルに語るように、極めて即興的かつ直感的な作曲方法で数々の名リフを生み出してきました。

プレイ面では、ひたすら正確に刻むダウンストローク(ダウンピッキング)と、高速オルタネイトピッキングを主体とし、アイアン・メイデン風のギャロッピング・リズム(16分音符の跳ねるリズム)や、ドラマーのチャーリー・ベナンテとのユニゾン・リフが印象的です。

Guitar Worldのギターレッスンでも「素早いダウンピッキング、オルタネイトピッキング、そして強烈なパームミュートこそがAnthraxサウンドの骨格」と解説されており、その重厚でタイトなリフワークはライブでの疾走感につながっています。

代表曲『Caught in a Mosh』や『Madhouse』、『Among the Living』などでは、このイアンらしいバキバキのダウンピッキング・リズムが存分に堪能できます。なお、Anthraxではリードギターは他のメンバー(現在はジョン・ドネイスなど)が担当することが多く、イアン自身はほぼ全編リズムギターでバンドを支え続けています。

スコット・イアンの使用機材

Scott Ian King V
Jackson X Series Signature Scott Ian King V

スコット・イアンのは長年Jacksonギターを愛用しており、JacksonシグネイチャーのKing Vモデルを好んで使用しています。1980年代初頭~中盤は、ランディ・ローズモデルのJackson「Randy Rhoads Concorde」を主要ギターに演奏していました。特に『Spreading the Disease』(1985年)や『Among the Living』(1987年)のツアーでは、この白いCustom Shop製コンコルド型ギターをメインに使用し、レコーディングでも大部分を担っています。

88年以降、イアンはJacksonソロイストやESPなど他のギターも使用しつつ、徐々にシグネイチャーKing Vをメインギターとして導入していきました。2000年代以降はJacksonと協力したシグネイチャーモデル(KVシリーズ)がライブの定番となり、最新の40周年ツアーでもカスタムKing Vを中心に演奏しています。ピックアップは主にセイモアダンカン製のハムバッカー(JB等)を搭載し、激しいリフでも粘り強いサウンドを出します。

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アンプ

アンプに関しては、これまでマーシャル製JCM800など真空管アンプを愛用してきましたが、近年はエディ・ヴァン・ヘイレンが開発したEVHブランドのEL34ヘッドを「自分のドリームアンプ」と称して常用しています。イアン自身、「エディの音はロック界で最も識別できるトーン」と敬愛しており、実際EL34ヘッド導入後も、あの鋭く歪んだハイゲインサウンドがAnthraxの厚いリズムトーンにフィットしています。

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ANTHRAXとスコット・イアンがメタル界に与えた影響

Anthraxは90年代以降も活動を継続し、スラッシュ・メタルだけでなくその後の多くのバンドに影響を与えました。メタル界では、Anthraxの1987年作『Among the Living』が歴史的名盤とされ、スラッシュメタル四天王としての地位を不動のものにしたことが評価されています。

このアルバムは「スラッシュの創始者の一人として新しい扉を開け、ビッグ4入りを決定づけた」とも評されるほどです。またAnthraxはヒップホップとのクロスオーバーも果敢に取り入れ、1991年のPublic Enemyとの共作「Bring the Noise」はメタルとラップの融合を示した先駆的な例として語り継がれています。

国内外のバンドからも「Thrash Metalの原点」として敬愛されており、激速リフとキャッチーなメロディを併せ持つプレイスタイルは、後進のスラッシュ/デスメタル系ギタリストに大きな影響を与えました。

一方で人懐っこいユーモアも忘れず、S.O.D.(スコットが参加したクロスオーバー・バンド)のように硬派な中にも遊び心を持つ姿勢は、ヘヴィ・ミュージックの幅を広げる上でも貴重な要素となりました。

ギタリスト目線で学べるポイント

イアンの演奏から学べる最大のポイントは「精度の高いダウンピッキング」です。彼のリフは基本的に全てダウンストロークで刻まれており、これを保つには右手の強靭なフォームと安定した手首の上下運動が不可欠です。Guitar Worldのレッスンでも、Anthraxサウンドの核として「高速ダウンピッキングとパームミュート」が挙げられており、この練習を積むことでギター全体のグルーヴ感が格段に向上します。

また、オルタネイトピッキングやハンマリング・オン/プリング・オフを交えつつも、リズムの要所では必ずダウンで音を鳴らして強調する手法は参考になります。

音作り

音作りの面では、「ブリッジ・ピックアップ+高いゲイン+ブースト系ペダル+フロイド・ローズ」というシンプルなセットアップが基本で、低音域を締めるEQ設定でクリアな歪みを得ています。ギターのセッティングでは、イルミネーションマーク無しの24フレットのネック(フレットレス仕様)など、弾きやすい高速仕様を追求している点も見習えます。

特にライブでは、テンポの速いリフを連続して弾き続けるための持久力と、チャーリー・ベナンテとの正確なユニゾン感覚が重要で、合わせて演奏リハーサルを重ねることが重要です。理論的な知識よりも「手を動かして音を合わせる」実践が中心という彼のスタイルは、実用的な学びの一つと言えるでしょう。

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