2020.1.29にリリースされた斉藤和義の20枚目のニューアルバム「2020」
テレビアニメのエンディングやカバー、インストとバラエティに富んだこの作品を今回は紹介していきたいと思う。
1.傷だらけの天使
アルバムの一曲目はまさかのインストカバー。テレビドラマ「傷だらけの天使」のテーマ曲である。
なんでも斉藤和義は「傷だらけの天使」は大好きなドラマでDVDも全部持っているんだとか。
スタジオで肩慣らしに遊びでこの曲をセッションしたところ思いの外ハマり、アルバムの一曲目にしようと思ったらしい。
シンガーソングライターでボーカリストでありながらもギタリスト、マルチプレイヤーとしても高い技術を持つことで知られる斉藤和義。
この曲のカバーを一曲目に持ってくるあたり、やっぱりギターが凄く好きなんだなと思わせられる。
2.万事休す
エレキギターのリフと「万事休す」というワードが一度聴いたら頭から離れない、癖になる楽曲。
歌詞はとてもわかりやすいものになっていて、思わずクスッと笑ってしまうようなコミカルな内容。
こういった歌も斉藤和義が歌うとロックになってしまうのが本当に凄い。
この気張っていない「緩さ」も斉藤和義の大きな魅力の一つだろう。
とても斉藤和義らしいナンバーだ。
3.a song to you
軽快なギターのカッティングと、シンセのリフが耳に残る楽曲。言葉数も多く、「ドレミファソラシドーシラソファミレド」「コケッコケッコーコケコッコー」など言葉遊びの要素が多い曲だが、こういった曲もサラリとやってしまうところがまたカッコいい。
4.アレ
斉藤和義、48枚目のシングル。
日本テレビ系ドラマ「家売る女の逆襲」主題歌。
ヴィンテージドラムマシン「Sequential Circuits TOM」とリズムマシン「Roland TR-707」を駆使してこの楽曲のリズムを構築したとのこと。
ドラマが大好きな斉藤和義の飽くなきこだわりが詰まった楽曲だ。
夕暮れ電車に乗った ドアに背を向けて立った
ほぼ全員がスマホとにらめっこ
何か事件でもあった?’いいね!’の数が気になった?
といったような現代社会を切り取って風刺した歌詞もまた爽快だ。
5.シャーク
シングル「いつもの風景」のカップリングにインスト「シャーク(NAKED)」として収録されていたものに歌詞を付けたもの。
元々インストにしようと思って録ったものに適当に歌っているうちに歌になったとインタビューで語っている。
ギターの手癖をそのまま曲にしちゃえ、「手癖上等だよ「とも語っている。
6.Room number 999
ビンテージロックなサウンドに女を口説き落とそうとするシーンを描いた歌詞。
今夜どうしたってオマエが欲しいのさ
たまらないぜそのくちびる
その肌 指先 俺は今やりたいだけ
ここまで欲望を真っ直ぐに歌詞にしても成立するのは、「せっちゃん」(セックスしたいと言いまくっていたことに由来する)の愛称で親しまれている斉藤和義ならではだろう。
歳を重ねる毎にセクシーさも増しているように思う。
7.猫の毛
こういった、フォーキーなポップスを歌われると、やっぱり斉藤和義は「歌」も良いんだよなと毎回再認識させられる。
ロックな斉藤和義も格好良いが、個人的には斉藤和義にはこういう曲もずっと歌い続けて欲しいと思ってしまう。
愛猫家としても知られる斉藤和義は猫を題材にした楽曲は多いが、この曲は直接的に猫について歌っているわけではなく、
このまま旅を続けよう
シャツには猫の毛付けたまま
と何らかのメタファーとして「猫の毛」を使用している。
全体的に余白の多い歌詞で聞き手によって色んな解釈を生む楽曲だが、奥底にデビュー当時から変わらない斉藤和義の「優しさ」を感じる。
8.オートリバース〜最後の恋〜
シングル「いつもの風景」のカップリング。
高崎卓馬による小説「オートリバース」のコラボソングであり、斉藤和義らしいフォーキーなサウンドに男女の別れを歌った切ないナンバー。
この曲も歌詞の情報量が少なく余白が多い為、聞き手によって解釈が変わりそうだ。
“僕には最後の恋でも
君はそうじゃなかった”
“君の新しい幸せを祝おう”
こういった描写から「君」が「僕」と別れて新しい恋に進んでしまったこと、それに対し「僕」は前に全く進むことが出来ずにいるという状況が伺える。
楽曲の雰囲気に斉藤和義のどのか気怠い歌い方が絶妙にマッチしている。
9.I want to be a cat
こちらも「猫」を題材にした楽曲。
こういったわかりやすく、ストレートな感情をロックなギターサウンドに乗せて歌うのは斉藤和義の最も得意なパターンだろう。
サビの「I want to be a cat」は特に上のハモリの旋律が主旋律であるかのように強烈に耳に残る。
10.ニドヌリ
一応歌詞として、
フガシガトマラナイ
ニドヌリタマラナイ
フガシガニドヌリ
とだけあるのだが、これはインストというカテゴリーでいいだろう。
2002〜3年頃に作ってストックしておいた曲だという。
アルバム10曲目でインスト曲は良い意味でちょっとした休憩にもなり、順番的にもとても良いと感じた。
11.いつもの風景
アニメ「ちびまる子ちゃん」のエンディング曲。
さくらももこが生前斉藤和義にオファーしていた楽曲で、亡くなる前に書かれていて遺作になってしまった歌詞にを継承し斉藤和義が仕上げた楽曲。
劇場版「名探偵コナン」の主題歌であった「ワンモアタイム」を初めて聴いた時に感じた感覚と似たものを感じた。
アニメソングとして、斉藤和義の良いところを落とし込むとこうなるのかと納得すると同時に、大衆音楽、ポップスのセンスもやはり素晴らしいものがあると感じる。
世間的には「歌もの」としての斉藤和義のイメージが強いのだろうが、それはやはり「歌」が良いからなのだ。
12.愛とやらにせっつかれてるのは気のせい?
これもまた斉藤和義らしいギターロック。
飾らない歌詞。だけどハッとさせられるところや、そうなんだよなとどこか納得させられるところがある。それもまた斉藤和義の歌詞の魅力だろう。
震災の時も「ずっとウソだった」で話題になったが、斉藤和義は心の奥にひっかかった多くの人が言語化出来なかったことをズバッと歌詞にして言ってくれる。
13.小さな夜
伊坂幸太郎の小説を原作にした映画「アイネクライネナハトムジーク」の主題歌。
アコギの弾き語りから始まり、途中からバンドサウンドが加わってくる。
初期の曲「アゲハ」を思わせるような雰囲気をどこか感じる。個人的には斉藤和義はこのくらいの温度感の楽曲が凄く胸に刺さる。シリアス過ぎず、軽過ぎず、絶妙なバランスであるから心が疲れている時でも楽に聴ける。
ありきたりな毎日に疑問を抱きながらも、劇的ではないちっぽけな毎日が、それが「最高」じゃなくても、自分にとってなくてはならないものなんだと教えてくれる。そんな楽曲だ。
14.キャンティの歌
アルバムを締め括るのは、テレビアニメ「アンデルセン物語」エンディングテーマカバー。
斉藤和義が昔大好きだった曲で、ふと口ずさんでしまっていたこともあったという。
「俺たちのロックンロール」というアルバムで合唱曲の「モルダウの流れ」をカバーしていて、そのカッコ良さに痺れたのだが、斉藤和義はジャンルに囚われずに「歌」として素晴らしいものは素晴らしいと、しっかり「歌」に対するリスペクトを持っているように感じる。
だからこそ、こうして斉藤和義がカバーすると合唱曲だろうとアニソンだろうと、それは彼の歌となり、多くの人の胸を打つのだろう。
総評
カバー曲、インスト曲、ロックなナンバー、バラード、フォーキーな曲とかなりバラエティに富んだアルバムであり、「歌歌い」としての斉藤和義よりも、ギタリストやマルチプレイヤーとしての色も反映されているアルバムのように感じた。
「歌歌いのバラッド」や「ずっと好きだった」のようなキャッチーなところから入ったファンには少し最初は聴きにくいところもあるかもしれないが、斉藤和義の魅力がぎっしり詰まった作品なので、一度聴いてピンと来なくても何度か聴いてるうちに癖になってしまう曲も少なくないと思う。
2020年にして20枚目のアルバムということでタイトルは「202020」
このコロナ禍の2020年を経て、ここから先、斉藤和義はどんな音楽を届けてくれるのか楽しみで仕方がない。
ライター:kato
2020年よりフリーライターとして活動。 @kato1155ka
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