マカロニえんぴつ「愛を知らずに魔法は使えない」全曲レビュー[記事公開日]2021年2月9日
[最終更新日]2021年02月9日
[ライター]kato

マカロニえんぴつ「愛を知らずに魔法は使えない」

神奈川県で結成されたロックバンド、マカロニえんぴつ。

彼らはこれまでインディーズで着実に知名度を上げてきた。

そして昨年2020年9月、結成から8年。満を持してトイズファクトリーからのメジャーデビューを発表した。

そんな彼らのメジャー1st E.Pとなった新譜「愛を知らずに魔法は使えない」の全曲レビューを書いていきたいと思う。

 

 

1.生きるをする

アニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」オープニング主題歌として起用された楽曲。

マカロニえんぴつのサウンドの特徴はギターロックでありながらも、キーボードの音色が楽曲に華やかさを持たせて、とてもポップなサウンドに仕上げている所だろう。

サイケデリックになりすぎず、かといってありがちなポップスにも聴こえない、絶妙なバランスで独自のサウンドを構築している。

そして、ボーカルはっとりの癖のある歌声と独特の歌詞の世界観。

はっとりの歌詞はシリアスだがとてもリアリティがある。

そして、言葉遊びにとてもユーモアがあり、メッセージ性は強いのに聴いていて押し付けがましくない。

 

「見つからない?自信じゃなく自分自身」

「見ててくれるなら魅せてみせるのに」

 

と言った同音異義語を用いる手法もよく使われている。

 

そして何よりこの曲のタイトル「生きるをする」というタイトルはとても面白い。

「生きる」という本来動詞であるはずの言葉に「する」という動詞を更に付けることで、色んな意味を持たせている。

きっと多くの人が、漠然と毎日を生きている。例えば「仕事をする」ように、「さあやるぞ」という意思を持って生きている人は少ないのではないだろうか。

 

しかし、「生きる」ということはとても難しく大変な作業だ。

ただ目を見開いて息をする、ただそれだけの「生きる」ということを、どこまでも強く続けていこうぜ、そんなメッセージが感じられる。

 

この曲はマカロニえんぴつの良いところがぎゅっと凝縮された楽曲だろう。

初めてマカロニえんぴつを聴くという人にオススメするのにもうってつけの一曲ではないだろうか。

 

 

2.ノンシュガー

テレビ東京系 ドラマ24 第60弾特別企画「あのコの夢を見たんです。」オープニングテーマ

このドラマは南海キャンディーズの山里亮太の小説『山里亮太短編妄想小説集 あのコの夢を見たんです。』をもとにした作品で、このドラマの為に書き下ろした楽曲。

ボーカルのはっとりは山里のファンであるとインタビューで公言している。

引用: https://www.google.co.jp/amp/s/www.cinra.net/news/20201031-macaroniempitsu/amp

 

ワウを用いた印象的なイントロから始まる、軽快な四つ打ちのダンスナンバー。

どこか懐かしくも、マカロニえんぴつらしいお洒落な楽曲。

ドラムの音に電子音を使っていたり、サウンドの面でも彼らの深い拘りを感じる。

2:25というとても短い楽曲だが、歌詞の内容はとてもディープで何度も歌詞カードを読み返したくなる。

サビの言葉選び、メロディもとてもキャッチーで本当に細部まで練られた楽曲だなと思う。

 

 

3.溶けない

「絆をつなぐ。セブンティーンアイス」新WEB動画の書き下ろし曲

歌い出しから、はっとりワールド全開ですぐに歌の世界の中に引き込まれてしまった。

 

「向いてないのかな きっと向いてないんだろうな」

 

何気ない言葉だが、すごく心に残るフレーズだ。

マクドナルド500円バリューセット書き下ろし曲の「青春と一瞬」を聴いた時にも感じた、終わりゆく青春の儚さと美しさを強く感じる。

溶けて消えていってしまう青春の儚さの中で、わからないことだらけのこの世界の難問を必死に解こうと、もがき、立ち向かう、そんな青春群像劇を観ているようだ。

2番サビの後から、楽曲の雰囲気がガラリと変わり、2本のエレキの掛け合いからの、ラップが始まる。

 

ここまでいきなり雰囲気がいきなり変わるアレンジも珍しい。

しかしそれでも違和感はなく、ちゃんと楽曲の中の有効なスパイスとしてこれが効いているのが凄い。

本当に細かいアレンジまで秀逸だ。

 

 

4.カーペットと夜想曲

色んな音がサンプリングされた面白い楽曲だ。

ちょっと力が抜けたような、おちゃらけた雰囲気を感じるAメロなのだが、歌ってる内容は「死にゆくこと」であり、かなりシリアスだ。

ボーカルはっとりの歌詞はシリアスなことを歌う時は主張しすぎないように、遊び心を入れることでしっかりとバランスを取っている。

そしてサビは「dula tu la」という意味のない言葉を持ってくることで、どんな意味にも捉えられる余白を残している。

このアルバムの一曲目が「生きるをする」でこの曲では「死」をテーマに歌われている。

今回の作品において「生」と「死」はきっと一つのテーマとして描きたかったものなんじゃないだろうか。

 

 

5.ルート16

こちらはアルバムの中で唯一、キーボードの長谷川が作曲を手掛けた楽曲である。

耳に残るピアノのイントロ、ジャクソン5の「I Want You Back」を彷彿とさせるような軽快でポップなナンバーだ。

サビのコーラスワークも凝っていてとても面白い。

ボーカルのはっとり作曲の曲でないのに、良い意味でマカロニえんぴつの楽曲として違和感なく溶け込んでいる。

メンバー間の中できちんと「マカロニえんぴつの音楽」というものが共有できている証拠だろう。

ルート16とは彼らの地元神奈川県の横浜を起点にしている国道16号線のことを歌っていると思われる。

歌詞は、付かず離れずの恋人同士の微妙な関係を独特の視点で切り取って描いている。

 

 

6.mother

アルバムを締め括るのはアニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」エンディング主題歌でもある「mother」

この楽曲の歌詞の中に今作のタイトルでもある「愛を知らずに魔法は使えない」という一節が出てくる。

「魔法」というワードはきっとドラゴンクエストの主題歌であるところからも来ているのだと思うが、「優しさ」という魔法を自分は使えないという主人公の様子が描かれている。

人は誰もが誰かから「優しさ」を貰って生きている。そしてその貰った「優しさ」をまた違った形で誰かに渡していくことで世界は作られていると思う。

そんな人間の普遍的な「愛」を歌っている楽曲のように感じた。

単純にmother=「母」への愛ではなく、もっと幅広いものを歌っているように感じる。

心の奥を温かく優しく包み込んでくれるような不思議な包容力を持った楽曲だ。

 

まとめ

今回、マカロニえんぴつのメジャー1st EP「愛を知らずに魔法は使えない」聴かせていただいた。

マカロニえんぴつはインディーズの初期からずっと聴いていたのだが、ずば抜けたポップセンスの光る、クオリティの高い楽曲をコンスタントにリリースしていたので、メジャーからのリリースをしていなかったことに逆に驚いた。

 

結成から8年。もっと早く日の目を見てもおかしくないバンドだったと思うが、こうして今、更なる高みへとバンドは登っていこうとしている。

ジャズやフュージョンの要素も取り入れながら、あくまでポップスを奏でるロックバンドとして、類を見ない存在となりつつある。

そして、マカロニえんぴつの楽曲が深く愛されるのはやはり、ボーカルはっとりの書く歌詞が大きいだろう。若者の代弁者としてこれからも大きな声で思いを叫び続けていって欲しい。

どこか洋楽の匂いがするサウンドに、シリアスかつユーモラスな言葉をのせた、マカロニえんぴつの楽曲はとても親しみやすい。そして奥深い。

かなり中毒性の高いバンドのように思う。

 

唯一無二の音楽を貫いて、このまま日本のロックシーンを引っ張っていってくれるだろう。

ライター:kato

2020年よりフリーライターとして活動。 @kato1155ka

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