取材をさせていただいたご縁で、岐阜県に居を構えるVINCENT(ヴィンセント)の小川さんにピックアップの取り付けを依頼しました。惜しげもなく匠の技を見せていただいたので、今回はそのレポートをしようと思います。
──展示会の感触はいかがでしたか?
小川(以下、敬称略) 予想以上に良い感触でした。やはり一番人気はVN-30 Blues、次いでVN-3 Standardだったんですが、第三位はエレガットのVC-11cでした。(参考:VINCENTギターのラインナップ紹介)
VN-30 Blues、VN-3 Standard、VC-11c
小川 展示会の開催を新聞で紹介して下さった地域では、切り抜きを持った方が来てくれたこともありました。「アコースティックギター博士の記事を見て来た」というお客様も何人かいらっしゃいました。プロの方も見に来てくれましたよ。次につながるようなお話もいくつかいただいたので、これから先がまた楽しみです。
ASTURIAS 7-STRING
今回取り付けを依頼するのはアストリアス(ASTURIAS)の7弦ギター、その名も「7-STRING」です。低音弦を追加し、かつ高音弦の指板を延長して音域を広げています。内部を確認したところボディエンド部にちゃんとブロック(下駒)があるので、ここに穴をあけてジャックを取り付けます。ヨーロッパのギターなどではこのブロックの位置がずれているものがあり、確認が必要なのだそうです。
小川 じゃ、いいですか?穴を空けますよ?
──やっちゃってください!
穴を空ける箇所に傷をつけます(けがき)。
中心と外周を同時に削る木工用の錐(きり)。これで一気に開けます。
小川 よく切れる錐で真っ直ぐやることです。この「真っ直ぐ」が難しいんです。
──きれいに開きましたね!
サドルを外し、ピックアップを通す細い穴を開けますが、1弦側にも穴を開け、これにて穴あけは完了。1弦側は貫通させません。
内部にエアーを吹き付けて掃除をします。
今回取り付けを依頼したピックアップは、定番の「エレメント」です。エレメントは、
という構成で、汎用性が高い人気のピックアップシステムです。
電池ボックスを設置するためのマジックテープを内部に貼ります。
普通はネックブロックに貼りつけるんですが、このギターは手工っぽく丸く仕上げているので、バック部に貼り付けるとのこと。穴を空けた時のゴミが残っているとちゃんとくっつかないので、きちんと掃除をします。
外側からガイドを挿し、ジャックを装着します。
時折ミラーを使って内部をチェック。
このギターのサウンドホールはそもそも小さめなんですが、指板が延長されているのでさらに狭くなっています。小川さんは、ここに平然と手を突っ込んで作業しています。
──ギター職人は、ある程度手が小さい必要があるんですね。
小川 ヤイリ時代には、ほかの職人の手が入らないギターが僕の所に回ってきました(笑)。こういうサウンドホールの狭いギターに手が入るというのは、僕の強みになっています。それにしてもこのギターはだいぶやりにくいですよ、指板の延長がなければかなりやりやすいんですが(笑)。
外側からナットをキュっと絞めて、完成。
外に出すジャックの長さは、エレアコとして使用する際に非常に重要です。ナットと同じくらいの出っ張り具合がベストで、これ以下だとシールドがしっかり挿せず接触不良になってしまいます。
手探りで、ピエゾをブリッジに空けた穴から出します。
見事、ブリッジの穴からピエゾを出すことができました。
ピエゾの先端5mmくらいのところは感度が鈍いため、1弦側に空けた穴に収めてしまいます。
ピエゾの厚みが0.6~0.7mmくらいなので、そのぶんサドルを削ります。
だいたいこれくらい削ります。
機械で荒削りして、
手作業で整えます。
牛骨のナットなので、削っている間はなんだかおいしそうな匂いがします。
小川 完全な平面は、手作業で作ります。手つきや力加減、抵抗の感じ方など、経験がモノを言います。このギターはピックアップを取り付けることを想定していないようで、サドルが低くて作業しにくいですね。しかし弦振動をダイレクトに伝えるためには、このくらいの高さが理想かもしれません。
これで配線を安定させます。
小川:LRバッグスは線全体がアースになっているので、取り回しが重要です。アーティストさんのギターを担当した経験で、どこに電池や回路を載せればいいか、かなりの勉強になっています。取り回しが悪い状態で大きな会場で鳴らすと、ノイズが出てしまうことがあるんですよ。
小川 バックのここらへんに電池ボックスを設置します。
──ここでひとつ問題が。私の手は入らないので、自力で電池交換できません(笑)。
小川 お子さんに手伝ってもらってください。
──このトシで、子供の世話になるんですね(笑)。
操作系を貼り付けます。サウンドホール外周が滑らかな局面に仕上げてあり、貼り付けにくいそうです。
実際にスピーカーで音を出して、出音の確認をして完成です。
サドルの具合で鳴り方が変わるとのことだったので、これからじっくりチェックしていくつもりです。
以上、岐阜県美濃加茂市VINCENTの小川さんにピックアップを取り付けていただきました。「ピックアップ取り付け」にはさまざまな作業がありましたが、どの工程でもプロの技を見せていただきました。小川さん、ありがとうございました!
ライター:小林 健悟
「エレキギター博士」 「アコースティックギター博士」で記事を書いています。 ギター教室もやっておりますので、興味のある方はぜひどうぞ☆ The Guitar Road 郡上八幡教室のページ 松栄堂楽器ミュージックスクエア岐南のページ 春日井音楽院のページ - ギター教室navi
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