2020年、衝撃的なデビューを飾ったシンガーソングライター、藤井風。
ビルボードジャパンの音楽チャートで初登場1位を獲得した藤井風の1stアルバム「HELP NEVER HURT NEVER」
今回はこちらの話題作の全曲レビューを書いていきたいと思う。
1.何なんw
アルバム一曲目を飾るのは藤井風のデビュー曲「何なんw」
この楽曲は藤井風の故郷である岡山の方言がふんだんに盛り込まれているのだが、方言全開の歌詞なのに、全く古くささや田舎っぽさを感じない。
寧ろ、物凄く新しい最先端の音楽のように感じた。
それはR&B要素の強いアレンジやメロディラインとのバランスが絶妙だからだろう。
サビの「何なん」は物凄くキャッチーで一度聴いたら頭から離れない。
また、タイトルに「w」が付いているところも面白い。
「笑い」を意味するネットスラングである「w」を曲のタイトルに使うところや「やばめ やばめ」といった歌詞を使うところにも「現代風」な要素が散りばめられていて、方言を大量に使うこととのバランスがここでも上手く取れているのだと思う。
2.もうええわ
1曲目の「何なんw」を聴いてからこの曲を聴くと「なるほど、これが藤井風なんだな」と納得させられる。
ヒップホップ的なサウンドにこれまた方言が多く使われた歌詞が乗せられている。
藤井風のオフィシャルYouTubeチャンネルで、この曲は「人生における全ての重荷の放棄」「人生のあらゆる執着からの解放」を歌ったものだと語っている。
引用: https://youtu.be/9bgDC7KfaFs
藤井風は現在23歳。この曲をリリースした時はまだ22歳だと思うと、一体どんな経験を積んできたら22歳にしてこんな歌詞が書けるのだろう。
歌詞全体のテーマも、Aメロ〜Bメロの歌詞もどちらかと言うとシリアスな内容なのに、サビで「もうええわ」という力の抜けた言葉をチョイスしてくるところにセンスを感じる。
ホームレスに扮したMVもこの楽曲の持つメッセージをしっかりと表現していて観ていてとても面白い。
3.優しさ
切なさ溢れるピアノのサウンドとストリングスが印象的なミディアムバラード。
どの曲を聴いてもそうなのだが、バラードだと特に藤井風の歌唱力の高さが際立つ。
太いローミッドの歌声が凄く素敵だと思って聴いていたが、サビの「Ah-」の部分なんかは非常にミックスボイスを使っている。
歌謡曲のような哀愁のあるサビのメロディライン。
ある種の王道のポップス感もあり、個人的には一番とっつき易い曲のように感じた。
藤井風の引き出しの多さに驚かされる。
4.キリがないから
シンセの音色が印象的な楽曲。
驚いたのはトラックはとても洋楽っぽいのに、「迷える可愛い子羊たち〜」のところのメロディラインがヨナ抜き音階になっているところだ。
R&Bやヒップホップのサウンドの中にもしっかりと日本人が好むメロディを落とし込んでいて、藤井風が幅広く支持されるのはそういった色んな要素のミックスとバランス感覚が長けているからなのだろう。
5.罪の香り
こちらの楽曲も色んな要素が盛り込まれている。ホーンセクションがとても印象的な楽曲だが、歌謡曲テイストでもあり、ジャズのような雰囲気も感じられる。
藤井風の曲はどの曲もサビのワードが強烈に耳に残る。「おっと罪の香り 抜き足差し足 忍足」がやはりクセになる。
6.調子乗っちゃって
タイトルの通り、藤井風が自分への戒めとして書いたと言われている楽曲。
切ないピアノのイントロから始まり、ウッドベースの音色が心地よい。
そう思っていたら、唸るようなシンセベースがレイヤーされサビでは壮大な世界観を作り出す。
ここまで聴いてきて思ったのは藤井風の曲はほぼ必ずと言っていいほどタイトルになっている言葉が歌詞の中に出てくる。それもサビに使われていることが多い。
売れる曲はタイトルの言葉がサビにくるという法則は有名だが、やはりサビのワードがタイトルになっている曲は印象に残りやすい。
この曲も然りである。
7.特にない
先程、「もうええわ」の解説動画を載せたのだが、解説動画で藤井風は英語を喋っており、この楽曲「特にない」でもまるでネイティブのような英詞を歌いこなしている。
岡山弁からのこの流暢な英語はギャップが凄い。
これもまた藤井風の魅力の一つなのだろう。
藤井風の楽曲に通ずるテーマとして、「執着せずに自由に生きる」といったものを感じる。
この楽曲も「特にない 渇きなどない わたし 満たされてる」で締め括られるが、いつだって人は実は必要なものを持っていて、本当は満たされてる、そんなメッセージを感じる。
8.死ぬのがいいわ
この曲もヨナ抜きのピアノの旋律から始まる。
そしてこの曲もサビで「死ぬのがいいわ」と繰り返す、とてもインパクトのある楽曲だ。
ヨナ抜きの「和」のテイストとR&Bの「洋」の要素が混ざり合っていて、歌詞も「方言」と「英詞」のミックス。
藤井風に感じる新しさ、面白さの一つはこの「和洋折衷」にあるのかもしれない。
9.風よ
ノスタルジックな雰囲気が漂う昭和歌謡な楽曲。
あるがままに生きる大切さと、その難しさを歌っているように感じる。
藤井風は歌唱力がずば抜けて高く、歌の表現力も群を抜いているが、この曲を聴けば彼の歌の凄さがきっと誰にでもわかるだろう。
自分が藤井風というアーティストの存在を知ったのは、YouTubeで彼が歌うカバー動画を見たのがきっかけだった。その時もあまりの歌の上手さに「この男は一体何者なのだろう」と思わず調べてしまった程だ。
20代前半にしてこの完成された歌は本当に凄い。
10.さよならベイベー
アルバムの中では異色なロックナンバー。
それでも昭和歌謡がルーツにある「和」のメロディラインとR&Bの歌い回しが加わり、完全に藤井風のワールドになっている。
藤井風は歌詞も秀逸なのだが、やはりサビのメロディがとてもキャッチーだ。
どんなテイストの楽曲であってもどこかに必ず日本人のツボを押さえたメロディを持ってくる。
この曲のサビのメロディは特に、日本人の心にグッとくるものがあるのではないだろうか。
1o曲目にしてこの爽快なロックナンバーはとても良い曲順のように思う。
それにしても、藤井風が歌うと方言が本当にカッコ良く聴こえる。
11.帰ろう
アルバムの最後を飾るこの楽曲は、藤井風独自の死生観が描かれている。
このアルバムの楽曲の中で個人的には一番この曲の歌詞に感動した。
「与えられるものこそ 与えられたもの」
この達観した、悟りを開いたかのような、人間の本質を付いた言葉たちは、どう考えても20代前半の歌詞ではない。
正直、このアルバムを聴くまでは藤井風のことは歌が上手い新人くらいにしか思っていなかった。
歌唱力はさる事ながら、メロディセンス、歌詞、演奏、どれを取っても藤井風、とんでもない化け物である。
まとめ
藤井風の1stアルバム「HELP NEVER HURT NEVER」隅から隅まで聴かせてもらったが、本当に凄いアルバムだ。
繊細な歌詞の表現力、インパクトのあるサビの言葉のチョイス、そしてそれをまとめるバランス感覚、日本人の心に響くメロディセンス、そしてそれを歌い上げる歌のスキル、どれも超一流と言っていいだろう。
間違いなく藤井風は令和の音楽シーンを牽引する存在になると思う。
正直、こんな凄いシンガーソングライターが出て来てしまうと、この後に続くシンガーソングライターは本当にハードルが高くて大変だ。
藤井風の今後の活躍が本当に楽しみだ。
ライター:kato
2020年よりフリーライターとして活動。 @kato1155ka
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