2020.9.2にリリースされたRADWIMPSの最新作「夏のせい ep」
2020年、3月から7月の間にR配信限定でリリースされた楽曲を全て収録した今作。
このコロナ禍におけるRADWIMPSからのメッセージが詰まったこの作品、全曲レビューを書いてみたいと思う。
1.夏のせい
Apple MusicのCMソングで「夏」をテーマにした楽曲。
今作の表題曲でもあるこの曲は「自分が感じる夏というものをRADWIMPS流にストレートに表現したかった」とボーカルの野田は語っている。
今まで季節感を全面に押し出したような楽曲はRADWIMPSにはあまりなかったが、この楽曲は夏の持つ刹那さ、瑞々しさ、儚さ、美しさがギュッと凝縮されている。
夏は凄く華やかで派手な季節ではあるが、その反面、一瞬にして終わってしまう「終わりに向かう儚さ」が他の季節に比べて強あるのだと思う。
夏祭りのあとの切なさはその良い例だ。
野田洋次郎の書く繊細な歌詞の世界観と、夏の本来持つ「永遠と一瞬」とでも言うべきテーマが非常にマッチしている。
野田は「恋の終わり」や「命の終わり」への畏怖を色んな楽曲で歌ってきた。
今作「夏のせい」はそんな野田だからこそ描けた歌詞だろう。
夏の景色や情景がはっきりと描写されている歌詞ではないのに、聴いてるものの心にはきっとそれぞれの夏が瑞々しく映し出される。
「僕らが跡形もない3000年後も何ひとつ変わらずに 夏は謳いだす」
夏という大きな世界に代わる代わる産み落とされては消えていく命たち。
野田の歌詞は自分たち人間をどこか俯瞰して見ているように感じる。
この楽曲のメロディラインもまた夏の持つ「陰と陽」を感じさせる。
どこまでもノスタルジーな気持ちにさせられる楽曲だ。
2.猫じゃらし
キリンビバレッジ「午後の紅茶」のCMソングとして書き下ろした楽曲。
印象的なピアノのリフと野田の歌声が優しく染み渡る。
この楽曲のテーマは「そばにある”幸せ”」だと野田は語っている。
「騒ぎ立てるほど不幸じゃない毎日と聖者になれるほど幸福じゃない毎日を」
ある朝アラームに笑われた気がした、シャワーの音に憐れまれた気がした、と歌っていて
ありふれた日常をどこか卑屈に捉えてしまっている心情が描かれている。
それでも、「触れるくらいの幸せ」を抱っこして「背負えるくらいの悲しみ」をおんぶして、と歌っている。
今、自分が「不幸せ」だと感じている時、「幸せ」というものは遥か遠くの未来にあるものだと考えてしまいがちだ。
しかし、「幸せ」は実はいつだってそこにあるものを「幸せ」だと思える心があるかどうか。
そんなことを思わされる楽曲だ。
「猫じゃらし」というタイトルを何故付けたのかはわからないが、自分なりの解釈では、
「どこにでもあるもの」=「幸せ」の象徴であり、それをギュッと握りしめるとスルリと手の中から逃げていってしまう。
「”幸せ”はどこにでもあるものだが、それに固執してしがみつこうともするな」そんなメッセージが込められてるのではと思った。
これは深読みかもしれないが。
3.Light The Light
コロナ禍において、野田が中国の知り合いから「中国で不安な生活を送る人たちを励ます曲を作ってはもらえませんか」オファーを受けて制作した楽曲。
中国の人たちに向けて、いや、コロナウィルスと戦う世界中の人へ向けて書いた曲であるから歌詞は全て英語なのだろう。
サビのメロディラインが特に美しく、歌詞の意味はわからずに聴いても胸の奥を掴まれるような感覚になった。
RADWIMPSはバンドの演奏力や野田洋次郎の歌詞に目が行きがちだが、野田のメロディーメーカーとしての実力も超一流なのだと改めて気付かされる。
Someday we will laugh all night About our hardest night
サビの歌詞だが日本語に訳すと「いつか僕らはひと晩中語り合うんだ この何よりも大変だった時のことを」となる。
コロナ禍において苦しむ人々を励ます真っ直ぐなメッセージが込められている。
タイトルの「Light The Light」は直訳すると「光を灯す」という意味。
音楽に出来ることは少ないかもしれないが、それでも音楽で「希望」を灯そうとする野田の強い想いが感じられる楽曲だ。
4.新世界
テレビ朝日系音楽番組ミュージックステーションから「番組にぜひメッセージを届けて欲しい」というオファーを受けて書き下ろしたした楽曲。
野田洋次郎はこの楽曲について、みんなが前を向けるような曲を作ろうと思い制作を始めたが、段々とそれだけでいいのかと違和感を感じたと語っている。
歌い出しのコーラスとエレキギターのアルペジオから物悲しく、不気味な雰囲気が醸し出されている。
「Light The Light」のような真っ直ぐな励ましの歌とは対照的に、コロナウィルスによって失われた日常は、同じものはもう二度と戻って来ないという憂いや、コロナ禍における社会への風刺が描かれている。
個人的にはこういった野田の少し毒のある歌詞や、憂いのあるエレキのアルペジオのサウンド感が、これぞRADWIMPSだよなと嬉しくなった。
コロナウィルスが収束し、日常がいつか戻って来たとしてもそれは今までとは違う新しい世界だ。
失われたものはどうしたって二度と帰ってこない。
それでも、新しい世界で、新しい生活の中で我々は生きていかなくてはいけない。
そんなどうしようもない悲しみを抱えながらも、どうやってこれから生きていこうかと、問題提起している歌のように思えた。
5.ココロノナカ(Complete ver.)
2020年の6/3にストリーミング限定で配信された楽曲の完全版。
もともとはミュージックステーション出演の為に書き始めた曲だったが、一旦作業を中断し、その代わりに「新世界」が書かれた。
その後「お蔵入りさせるのもなんか違う気がしてきた」として、後にショートバージョンをInstagramにて発表した。
なんて美しいメロディと優しい言葉たちなんだろう。
「RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜」に収録されている「最後の歌」を聴いた時の感動に凄く近いものを感じた。
切なさの中にも優しさが凝縮されていて、心の奥に詰まっていた不純物が全て浄化されていくような楽曲だ。
サビの直前に「なぜなら」と放り投げて、「僕には帰りたい 明日があるから」
と真っ直ぐなメッセージを歌ってくるのも歌詞の手法として非常に上手い。
「なぜなら」
と言われてわずか数秒の余白で聴き手は、「なぜなら??」と早く答えを聴きたくなってしまうだろう。
いざ行こう さぁハッピーエンドよ そこで待っていろ
という歌詞で締め括り、このコロナ禍における苦しい状況であっても「幸せな未来」に向かって行く姿勢をしっかりと歌で示してくれた。
6.夏のせい(English ver.)
「夏のせい」の英語版。
「Lighg The Light」のところでも書いたが、歌詞がわからずに聴いても十分に通用する美しいメロディラインがこの曲にもある。
日本の持つ美しい「夏」が描かれた楽曲なので、世界中の人に野田の描く美しい夏の景色がこの歌から届いたらいい。
総評
野田の歌詞は非常に難解なものもあれば、とても真っ直ぐなものもある。
このコロナ禍において、ミュージシャンとして歌でメッセージを発信するという行為はとてもデリケートで難しいことだと思う。
特定の誰かを支持するようなメッセージを発信すれば、そうではない人たちからネットで袋叩きにあってしまう時代だ。
それでも野田は自分の言葉で、音楽でメッセージを届けようとし続けている。
サウンド的にはロックバンドの音に留まることなく、様々な試行錯誤も感じ取れる。
コロナ禍を乗り越えた先に放つ、RADWIMPSの音楽がどんなものであるか。
今後の活躍が益々楽しみになった。
ライター:kato
2020年よりフリーライターとして活動。 @kato1155ka
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