表板が平らな「フラットトップアコースティックギター」を創始したマーチン(C.F.Martin)は、アコースティックギターの歴史を語る上で真っ先に名の挙がる存在です。現在のアコギのルックスから構造まで、ほぼ全てはマーチンが始祖となっています。ここではヴィンテージモデルからモダンなモデルまでいくつかの製品を紹介しましょう。
マーチンは創業者のクリスチャン・フレデリック・マーチン氏がニューヨークに移住した1833年をもって設立とされています。現在でもヘッドのロゴに記されている”EST.1833”はその証明となっており、マーチン氏はこの年にヨーロッパからアメリカに移住、ウエストサイドのハドソン通りに工房を兼ねた楽器店を開き、不退転の決意で楽器の製作に取り組んだようです。
1850年代、マーチンギターの基本となるXブレイシングが開発されます。表板の強度を上げ、かつ響きを芳醇にするこのブレイシングは現在まで100年以上も引き継がれており、いかに優れた発明であったかを物語っています。C.F.マーチンはこの時期に”5”や”0”などのレギュラーラインを登場させており、その後にもO(オー)、OO(ダブルオー)など、ボディサイズに応じて、いくつかのモデルが新たに投入されていきます。
時は過ぎ、1920年代。マーチン社は3代目のフランク・ヘンリー・マーチンの時代、世は世界恐慌に揺れ、マーチンも社の生き残りを賭けて、様々な新しいモデルを考案します。その中に14フレットジョイントのドレッドノートモデルがありました。これこそは”ドレッドノート”の始まりであり、世界中のアコースティックギターの礎となったモデルです。
マーチンはその歴史の中でアコースティックギターのみならず、マンドリンやウクレレなど、他の弦楽器も積極的に手がけてきています。200年近い歴史の中で保守的であったことはほとんどなく、常に革新的な姿勢を貫きました。今も新しい野心的なモデルを世に投入し続けています。
マーチンのギターはよく、優しく繊細と表現されます。対抗馬のギブソンがハリがあって元気がある、とされているのとは対照的で、特にフィンガーピッキングや単音での演奏などに味わいのある音を出してくれるという評価がもっぱらです。繊細であるため、弾き手のピッキングニュアンスをしっかり受け止めて表現してくれます。情緒的な演奏にも強く、演奏者の技術が高いほど、表現をダイレクトに紡ぎ出してくれるため、苦手なジャンルなどもなく、オールマイティに使うことができます。
マーチンのギターは数が非常に多いですが、まずシリーズが大きく分かれており、その中でボディサイズとグレードによって型番が決まります。
マーチンを代表するシリーズで、往年の設計思想をそのまま受け継いだ正統派シリーズ。
既存のXブレーシングから派生した新たなAブレーシングが施されたシリーズ。昨今手に入りにくいマホガニーの代替としてサペリ材を使用、指板にはリッチライトを使用するなどして、低価格に保っています。
ボディ全体にマホガニーが使われた、赤茶けた濃い色が特徴のシリーズ。マホガニーの特性である中域が強く、スプルースなどを使用する通常モデルとはまた違う個性を放っています。
いずれもリーズナブルな価格に抑えたシリーズ。仕上げをサテンフィニッシュにする、あるいは手に入りやすい木材を適切に使用するなどで、コストの圧縮を図っています。
森林保護の観点から、ハイプレッシャーラミネイトという圧縮合板材を使用したシリーズ。合板の使用からも分かる通り、他のモデルに比べて安価でありながら、しっかりとしたマーチンの音が得られるのが魅力で、初心者にも向いています。
ドレッドノートのボディを一回り小型にしたシリーズ。小型のボディからは想像できないほど鳴りが良く、マーチンのなかでももっとも安価。小さい分弾きやすいのも手伝ってか、高い人気を誇ります。
マーチンのギターで最大の大きさを誇るのがこのドレッドノート。14フレットジョイントのドレッドノートは現在のアコースティックギターのスタンダードとなりました。十分な大きさ、そして弦長も長く(645mm)、パワフルで強い音が持ち味。世の中のマーチンギターのほとんどがこの形状で、型番に「D-○○」と付いているものは全てドレッドノートになります。
ドレッドノートの次に大きなモデルがこれ。ドレッドノートよりも小型である分、低域が減少し、その結果少し煌びやかさが増しています。ドレッドノートに比べるとネックもやや短く(632mm)、弦の張りが若干柔らかいのも特徴。
この辺りから少し小さめに感じるようになります。一見した印象としてはスリムな雰囲気を感じ、大きさが小さくなった分、中低域は控えめになり、その分高域側のレスポンスが向上。単音弾きなどにもおすすめなサイズです。
Little Martin、Backpackerを除く全ラインナップで最小のモデルがこちら。明るいサウンドで、持ちやすく弾きやすいため、様々な層から人気があります。
ドレッドノートと同じ弦長(645mm)を維持し、くびれを深くしたサイズ。外見は丸く可愛らしいシェイプとなり、持ちやすく、かつ中低域のパワーも感じられます。
マーチンの代名詞となるモデル。トップにはシトカスプルース、サイド、バックにはローズウッドが配され、煌びやかで広がりのある音は、まさに象徴的なマーチンの音と言って良いでしょう。マーチンのみならず全アコースティックギターの定番です。
代表機種D-28に見るMartin(マーチン)ギターの特徴 – アコースティックギター博士
シトカスプルースとマホガニーで組み上げられる”18”は、トップに若干のエイジング塗装が施され、エボニー指板、べっ甲柄のピックガードも合わさることで、ヴィンテージの風合いを醸し出しています。ドレッドノートよりもやや小型なトリプルオーのボディは、持ちやすくエッジのある音色で、幅広く使うことができるでしょう。
000-18を…
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サイド、バックにマホガニーの代替材であるサペリを使用したRoad Seriesの代表機種。メキシコでの製造ということもあってか、値段もかなり抑えられており、実売にして10万円強で手に入れることができます。下位モデルとはいえマーチンのクオリティは健在で、やや地味ながらも品のある音色を奏でます。フィッシュマンのピックアップが搭載されており、エレアコとしての使用も可能。
D-10Eを…
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ボディ全体にマホガニーを配した15シリーズの代表格。表板にスプルースを使うのが普通であるマーチンのラインナップの中では異色の存在で、その色の濃い見た目も含め、女性からの人気が特に高いモデルです。マホガニーならではのふくよかな中域は、ストロークプレイの際に特に気持ち良く感じられるため、ストロークがメインのスタイルのギタリストに高評価を得ています。
D-15Mを…
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表板に単板のスプルース、サイドとバックにハイプレッシャーラミネイトと呼ばれる特殊合板を使用したXシリーズ。ドレッドノートサイズのこのモデルはシリーズでもっとも人気があり、他のモデルに比べても大幅な低価格を実現しているため、初心者にも手が届く一品となっています。廉価版とはいえ、構造や工法は上位モデルのものをそのまま受け継いでおり、まごうことなきマーチンを感じさせます。FishmanのSonitoneピックアップを装備し、ステージでの使用も問題ありません。
D-X2Eを…
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LXK2
昨今人気が出てきているミニギター”Little Martin”。エド・シーランの使用によっても有名になったこのモデルは、小さいながらもしっかりとした鳴りを維持し、特にボディサイズからは想像できない低域の鳴りはさすがの一言です。値段も一般的な練習用ギターと同じ価格帯におさまっており、とりあえず一本導入するのも簡単。運搬用や軽くつま弾くための2本目としても活躍しそうです。LX1はピックアップがありませんが、LX1Eというピックアップ付きの姉妹品がラインナップされています。
Martin(マーチン)こだわりのミニギター特集 – アコースティックギター博士
マーチンを代表する最高機種で、「いつかはマーチン」と呼ばれる際に、目標としてたびたび挙げられる存在。厳選されたスプルースとローズウッドが入荷したときのみ製作されるという、レギュラーラインの中でも別格の立ち位置を築いています。ふくよかな低域に煌びやかな高域が合わさったそのサウンドは優雅と形容され、マーチンはもちろん、全アコースティックギターの中でも最高の評価を得ています。軽自動車に匹敵する価格で、おいそれと手にすることはできませんが、アコースティックギターを嗜む者であれば、一度は弾いてみたいと思うギターでしょう。
D-45を…
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ストラップを掛けて弾く前提で、胴体を大胆にカットしたトラベル専用ギター。まるで鳴らなさそうな見た目に反して、ピックでもフィンガーでもしっかりと鳴り、さすがにマーチンの技術力を感じさせます。数多の小型ギターのなかでももっとも音が良い機種の1つで、値段も手軽に購入に踏み切れる価格帯になっています。
Backpackerを…
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アコースティックギター最大手であるマーチンは、大手であることにあぐらをかくことなく、真摯に楽器製作に取り組んできたメーカーです。ヴィンテージがもてはやされやすい現在においても、現行品の評価がそれ以上に高く、常にプレイヤーを裏切らないギターを世に送り出してきました。ギタリストとしては一度は持っておきたいブランドと言えるでしょう。
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